草食系男子なんて言葉が最近流行っているそうだ。自慢じゃないが、俺はその走りだと思う。そんじょそこらの草食系なんかよりずっと年季が入っているはずだ。

どんなに仕事で疲れていても、休みの日は俺が女房より先に起きるというのがウチのルールだ。何があっても女房を起こすようなマネはあってはならない。子供たちが騒ぎだしたら、「ママが寝てるんだから静かにしなさい」と叱るのも忘れない。万が一女房を起こしてしまったら、その日ずっと女房の機嫌が悪くなり、俺の居場所がなくなってしまうからだ。女房は専業主婦だけど、休日の家事は俺が担当することになっている。いつからそんな風になってしまったかは覚えてないけれど、これが一番平和的解決だということに気づいてからは、俺は率先して家事をすることにしている。それでもやり方が気に食わないと女房が不機嫌になってしまうこともあるけれど。

だけどやはり理不尽だなと腹に据えかねることはある。例えばそれは風呂場の排水溝を掃除しているときだ。女房は潔癖症なので、排水溝の掃除は俺の担当だ。だけど排水溝に詰まった髪の毛の殆どはどう見たって俺のじゃない。こんな長い毛、俺のものであるはずがない。排水溝を汚しているのは女房なんだから、女房が掃除すべきだろう。でも言えない。いや、言わない。これで今日が平和にやり過ごせるなら。

「風呂掃除終わったよ」と言うと、女房がソファでポテトチップを食いながら、「あぁ、ありがと」とこっちを見ることもなく言った。昔付き合いたての頃は、大きなポテトチップを手で割って小さくして可愛く食べてたのになあ…。いつからこんな進撃の巨人みたいにポテトチップを食うようになったんだろうか。ぼんやり女房を見ていると、「何?」とやや不機嫌そうに女房が聞いてきた。「いや、何でもない」。本音など言えるわけがない。壁はもう、壊されてしまったのだから。